■たわごとですかーっ!!■



▼02/11/10【車という空間】

1人で車を運転する。そういった車内で過ごす時間はけっこう多い。
車の中は通常、オープンカーやトラクターを除けば密室である。
したがって、いくら声を張り上げたところでまずその声が外に漏れることはない。
それを良いことに、ついやってしまうことが誰しもあるのではないか。

「ヤッホー!」

ヤッホーは通常山に行かねばできない行為であり、しかしながら山へ行くには周到な準備と暇が必要であることは言うまでもない。
だがしかし、いくらお手軽だからって車内でヤッホーはないじゃないか。
そもそも清々しい空気と広大な風景はそこにはないし、いくら叫んでもこだまは返ってこないのだ。
そういう観点から車内のヤッホーほど虚しいものはないのではないか。

その他に車内において考えられる代表的な行為としては、どんでん太鼓を叩く、チャルメラを吹く、などがあるだろう。
しかし、これらは少々お勧めしかねる行為であるとは言えまいか。
なぜならば、いま現在いる場所は車内であり、いったい誰が運転してると思ってるんだ。
ボクです。
車内には自分1人である。したがって運転してるのは自分自身であり、太鼓を叩くとか、チャルメラを吹くなどという行為は音が漏れるとかいう以前の問題なのである。

そういったことを踏まえ、車内でついやってしまうこと、それは、

「歌う」

そう、車の中でつい歌ってしまうのだ。

ラジオから懐かしい歌が流れ出す。
すると、いてもたってもいられなくなるのだ。そうなるともう無意識のうちにその歌に合わせ歌ってしまっているのである。

最初は鼻歌程度のものだろう。
しかし、次第に体はのってくる。もうすでに自分自身を抑えることはできない。
気がつけば、大きな口を開け、大声を上げ歌ってしまっているのだ。

いまこの場所は車の中である。だったらいくら大声で歌おうがかまいやしない。
思う存分声を張り上げ、腹のそこから高らかに歌うのだ。

信号が赤に変わる。
車を止める。しかし、オレの歌声は止まらない。
自分の世界にどっぷりと浸ってしまっているのだから無理もない。
なんぴとたりともオレを止めることなどできやしないのだ。

だがしかし、、、
止まったよ、止まった。
口ほどにもなく止まりました。

ふと、横に並んだ車の中を見てしまったのだ。
その中のサラリーマン風の男と目が合う。
目が合うどころの話でない。口も合っているではないか。

隣の車の男もやっぱり歌っていたのだ。
しかもまったく同じ口の動きで。
同じラジオを聞いていたのだろう。
そこから流れ出る同じ歌に合わせ二人は歌ってしまっていたのである。
迂闊だった。

お互い目を合わせ、口を開けたまま固まってしまう。
デュエットしているつもりは毛頭ない。
しかし、結果的にはデュエットである。
その気まずさと言ったら、なんて言ったらいいんでしょう。
敢えて例えるなら、山と積まれたバーゲン品を引っ張ったら、実はもう一方からもその商品を引っ張っている人がいた、そんな気まずさなのではないか。
どんな気まずさなんだ、それ。

それでも次の瞬間には再び歌ってしまうのだ。
車の密室とはそういう異空間なのだ。

byクムラ〜


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