■武蔵を語る■


【第47回 涙の別離】

和議、即ち、豊臣が徳川の和平を受け入れる形で大坂冬の陣は終わった。
しかし、和平と言っても、それは豊臣側に取っては形だけのものであり、実際のところは徳川にいいようにされるがままのものであった。
ふと見れば、大阪城の堀は埋め立てが始まっている。埋められた堀、それはすでに堀ではないのではないか。強いて言えば、「埋め」と言うしかないだろう。
「堀」に比べて「埋め」のダメさ加減と言ったらないのではないか。
なにしろ、埋められた堀はすでに堀としての機能はなく、言ってみれば、通通である。
つうつうの城はかなりまずいと言えよう。

そんな通通な城にされては豊臣が怒るのも無理はない。
そしてついに豊臣家を守るため、真田幸村が戦う決心をした。

武蔵は沢庵に打ち明ける。宗矩と剣を交えたいと。
しかし、案の定、沢庵からは次の様な戒めの言葉。
「うらむな」
けっして、「へらぶな」ではないし「むなぐら」でもない。
そこまでとことん聞き間違えては、何が何だか分からない困った状況になってしまうのだ。
あくまでも「恨むな」だ。 沢庵は恨むなと言うのだ。
恨むなって言ったって…
これだけ身内が殺されたというのに、いったいなんだ、沢庵のその他人事さ加減は。
その他人事さ加減にしっかり悩んでしまう武蔵なのだった。

又八の手に持っているものは風車である。自分の子供に買った風車である。風車をふうふうしながら又八はお通に打ち明けた。鉄砲商いをやめると言うのだ。朱美と約束したらしい。
そう言いながら朱美が持っていたと言うマリア像をお通に見せる又八。

そんなさなか、又八はキリシタンの噂を聞きつけた。もしかしたらその中にお通の母の手掛かりがあるかも知れない。
望みを託し武蔵とお通は、キリシタンを探しに堺へと向かった。
道中は混乱を極めている。大火事にも出くわす始末だ。それでも何とかキリシタン一行に追いついた。
しかし、武蔵とお通が船着き場へ着いたときにはすでにキリシタン一行は出発したあとだった。
「ルシアさまーっ!」
叫ぶお通。
そしていつしかその叫びは、「かかさま」に変わった。お通は確信したのだ。ルシアさまが自分の母だと言うことを。
ルシアはやっとその声に気付くが、もう船は戻ることができない。
船に向かい笛を吹き出すお通。
夜である。運が悪ければ蛇が現れても致し方ない状況にあると言えよう。それでもお通は笛を吹く。それだけ必死なのだ。
「かかさま…」
そう呟き泣くお通。

商いのケリも付き、又八が朱美の待つ美濃へと旅立つ前夜。
武蔵が屋敷を離れた隙に、又八とお通が二人きりのところへ、突然の訪問者。
その訪問者から威勢のいい叫び声。
「武蔵はどこだ!」
見れば亜矢とその御一行である。
屋敷を探しまくる亜矢達。そしてついに又八とお通が見つかった。
逃げまどう、又八とお通。
こんなときに武蔵は何をやってるんだ。皆そう思ったに違いない。

そして、ついに又八の背に情け容赦のない一太刀が浴びせられた。
しかし、最後の力を振り絞り、必死にお通を守る又八。
そこへ更に亜矢が詰め寄る「武蔵はどこだ」と。
けっして口を割らない二人。
そして、又八にとどめを刺す亜矢。

お通に詰め寄る亜矢。
お通も口を割らない。
亜矢は思った。これ以上いくら尋問したところで、こりゃ無理だ、と。
となれば、お通にも用はない。
そして、お通を斬ろうと亜矢が刀を突きつけた、その瞬間、銃声が…
又八が銃で亜矢を撃ったのだ。
最後の力を振り絞ったのだろう。
そっと微笑み、そして息絶える又八。
その微笑みは大事なものを守り切ったと言う満足感に他ならなかった。

やっとのこと、武蔵が駆けつけ戻ってきた。
しかし、すでに又八はこの世にいない。
号泣する二人。

なんてやるせないドラマなんだ。
又八を返せ!
そう思わずにはいられない結末なのだった。

byクムラ〜



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