■武蔵を語る■
【第42回 武蔵と幸村】 幸村に命じられ、崖から跳び降りる武蔵。そこは切り立った竹の矢の上である。 足に傷を負い悶絶する武蔵。 せめてもの救いは、プールと勘違いし、頭から跳び降りなかったことか。 そんなやつ、おらんと思うけど。 「手当してやってくれ」と幸村。 「友のために命を差し出すなどとは久しぶりに聞いた。友を持ったことがないのだ、俺は」 幸村は独り言のように寂しげに語る。 数日後、改めて武蔵に謝る幸村。 傍らにいる又八へ、これを持って行かれよ、と何やら差し出す。大筒の代金らしい。 又八はそれを手に取ろうとしたが、一瞬ずっこけるほどの重さであった。 武蔵は傷が癒えるまで真田屋敷にいることになり、又八と三之助は一足先に村へ帰ることとなる。 幸村の子供、大助もまたできた子供で、年の頃はまだ10代後半であろうか、武蔵に向かい、実にすまなそうな顔で謝るのだ。 そして、親子で作ったという団子を武蔵に差し出した。 出たな、団子! 確か、沢庵和尚をもてなしたときも、この団子だったはずだ。どうやら、この家ではここぞと言うときのもてなしは、団子と決まっているらしい。 凄いぞ、団子。 こうなったら、娘の名前は「幸村団子」ってのはどうだ。どうだ、ってこともないけど。 団子を一口口にし、「うまい」と賛嘆する武蔵なのだった。 又八と三之助が村に戻った。出迎えるお通や村の面々。みな満面の笑みで二人を迎えた。しかし、喜んだのもつかの間、お通の顔色が変わる。お土産がなかったからなのか。いや違う。武蔵の姿がないからだ。 分けを話す又八。 命がけでオレを救ってくれたと、お通に打ち明ける。 ますます株が上がった武蔵なのだった。 お通はふと感慨深げに、又八に話した。 「やっと武蔵と心を一つにして暮らせるようになった」と。 その顔は満足感と幸せ感で一杯だ。 一方、又八の元を去った朱美が、路上でしゃがみ込んでいる。 路上でしゃがみ込み、やっていることと言ったら、通常、アリさんの観察だろう。 しかし、朱美の顔を見れば、苦悶の表情である。 そこまで真剣にアリさんの観察をする人は、ファーブル以外には考えられず、どうやら朱美は具合が悪いらしい。 つまり、つわりである。洒落てる場合じゃないけど。 身ごもっているのである。 そこへ、旅の途中だろうか、女が通りかかり朱美に声を掛けてきた。何やら分けありそうな女である。その女が朱美に優しく声を掛け、そして薬を差し出す。 朱美が薬を飲むのを確認した後、女はおもむろに懐から何かを取り出した。 マリア像である。自分で彫った物だと言う。確かになかなかの出来映えだが、それを売り付けようとでもいうのだろうか。それとも、ただの自慢なのか。 女は呟いた。 「どうか、マリア様のご加護がありますように」 どうやらオレの取り越し苦労だったようだ。 マリア像である。そう言ったときに思い出されるのは、お通が持っていたマリア像だろう。この女と何か関連があるのだろうか? もしかして、もしかすると、その女は、お通のおふくろさんと言うことも考えられるのではないか。もしそうだとしたら、この話、出来過ぎだよ。 真田屋敷は何やら賑やかである。何事かと思いきや、武蔵の全快祝いである。 武蔵を囲んで、飲めや歌えの大騒ぎなのである。 幸村は武蔵に言う。ただただ羨ましかったと。友のために命を掛ける。それを自分は素直に受け取れなかったと言うのだ。 すっかりいい気分になってしまい、武蔵に酒を注ぐ幸村。武蔵もそれに応え、ご返杯だ。ついには、子供達と一緒になって踊り出す幸村なのだった。 そんな幸村を見ながら、妻のお利世が武蔵に言う。 「いつもあのようになってしまうのです。」 そう言うお利世の顔はどこか寂しげだ。 そして打ち明けるように武蔵に言った。幸村の計画である。 幸村は決心していると言う。子供の大助と共に戦のため、大阪城へ向かおうとしてることを。 それを聞いた武蔵は幸村に問いただすように聞いた。 「なぜ戦へ行かねばならないのですか?これだけの子供がいると言うのに」 武蔵には家庭を捨ててまで戦の中へ自分の身を投げ出すことが信じられないのだ。 幸村は言う。自分を今まで生かしてきてくれたものは、誇りだと。かつて自分の父が家康方を倒したことを誇りに思っているのだ。そして、人間は誇りなくしては生きていけないものだと言う。そしてまた、自分の誇りは、子の大助の誇りでもあると言うのだ。 ひとしきり感服する武蔵。そして言う。幸村殿のように、旨い酒が飲みたいと。 その後、武蔵はよほど旨い酒を飲んだのか、とんでもないことになっていた。 女を追いかけ回しているのだ。 また、その追い掛け方がかなり凄いことになっている。 「えへへへへぇ…」 なんだ、このど迫力のスケベ振りは。 これがあの天下を轟かした剣豪武蔵の成れの果てなのか? なにしろ、完全無欠に酔っぱらっている。 あまりに暴れすぎているため、屋敷中大騒ぎである。なにしろ武蔵は強い。そんな武蔵を押さえるのは並大抵のことではないのだ。 だがしかし、武蔵のこれは芝居であった。幸村親子を大阪城へ向かわせるため、すんなりと屋敷から出られるよう仕組んだのである。 そして、幸村は大阪へ向かう。けっして勝ち目のない戦へと出発したのである。 子供の大助と、誇りを伴って… byクムラ〜 |