■武蔵を語る■


【第34回 対決!夢想流】

父、無二斎の頼みに後押しされるように、西の小倉へと向かう武蔵。
あれほど嫌がっていた仕官である。それを父の土下座であっさりと引き受けるとは、まったくもって、なんなんだ。

武蔵と離ればなれになったお通はと言うと、又八と朱美のところでやっかいになっている。
二人のお言葉に甘えたのだ。
又八は材木で大儲けし、いまや、かなり相当バカでかい屋敷に住んでいる。
お通の一人や二人はどうってことないのである。
それよりも何よりも、又八の気持ちは、お通と一緒に住みたい、それもまたあったに違いない。

お通は、すっかり弱気になっている。もう武蔵は自分を必要としていないのではないか。そう思わずにいられないのだ。
いつまでも又八に世話になっている分けにもいかず、結局お通は、お杉婆と共に故郷の美作へ帰ることにした。

小倉へ向かう武蔵にいきなり、槍を突きつける女。
だれだ、この女は…
けっしてマサイ族などではない。れっきとした日本人であることは確かだ。
どうやらその女は自分の息子と立ち会えと言ってるらしい。
なんとも薮から棒な話である。

その息子の名は、夢想権之助。杖術の達人である。
それにしても、名前が凄い。夢を想う権之助である。だって、権之助だよ、権之助。
権之助が夢見たっていいじゃないか。

しかしながら、当の権之助はどうも乗り気ではないようだ。
母、たかは、通りかかる武芸者に無闇やたらと勝負を挑ませているようだが、息子はそれに対し、ちょっと嫌気が差しているのである。

武蔵が名前を告げると、俄然目の色が変わる母、たか。
宮本武蔵だからである。
武蔵の名はいまや有名であり、武蔵を倒せば名を上げ、仕官することができると考えたのだ。

一方の権之助は、さっぱり気乗りがしない。権之助が夢想うのは、武術ではなく、百姓だからだ。
そこで、この試合を最後にしたいと考え、権之助は武蔵に耳打ちする。
「負けてくだされ」
ちょっと待て、おかしくないか、それ。
武蔵が負ければ、それで最後にできると言うのか。勝てばさらに欲が出るのではないか。
その申し出を断る、武蔵。
立ち会う両雄。しばし、一進一退の攻防が続く。
そして突然、母、たかの奇声が発せられた。こともあろうに、武蔵はその声にひるんだのだ。
その瞬間、権之助の杖が武蔵の鳩尾を突いた。
尻餅を突く武蔵。
負けである。

母、たかは大喜びである。なにしろ今や時の人の武蔵に勝ったのである。
そんな母に権之助は言う。「武蔵は負けてくれたのだ。俺はこれから畑を耕す」と。

しかし、実際のところ、武蔵は負けてやったのではない。完全に武蔵は負けたのである。
こんな百姓に負けやがって、情けないことこの上ない。
これは大問題である。
なぜなら武蔵は無敗のはずだからだ。しかし、このドラマではけっこう負けているのである。
これではカリスマ失格と言われてもしょうがないのではないか。
これから小次郎と対戦すると言うのに、これでは気分は盛り下がる一方なのである。
この事実を小次郎が知ったら、いったい何と言うだろう。
きっとこう言うのではないか。
「ど、どうしてくれるんだ!」
興奮のあまり、半ば、どもり気味なのである。
小次郎の気持ちも分かる。小次郎は巌流島で武蔵に負けることになっているからだ。無敗の武蔵に負けるのであれば、まだ諦めも付くと言うものだろう。しかし、いま武蔵は無敗ではない。これでは小次郎の敗北に泥を塗るようなものだろう。
まだ、戦っちゃいないけど。

byクムラ〜



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