■武蔵を語る■
【第32回 武蔵の決意】 無実の罪で捕えられているお通。 そこは牢屋である。 他にももうひとり、同じ牢屋内に女がいるようである。 その女が釈放となり、牢屋から出ようとしたその時、お通は必死の形相でその女に言った。 「どうか、江戸に行ったら伝えて下さい、ここに私がいることを…」 いきなり見ず知らずの人間にそんなことを言われれば、こう言うしかないのではないか。 「おまえは誰だ」 いままさに出ようって人に、そんなこと言ってもダメだよ、お通さん。 そもそも悪いのは柳生兵庫之助である。 勝手にお通を引っぱり出しておいて、用が済めば済んだで、この物騒な世の中に女一人で帰すことはないじゃないか。 この責任をどうしてくれよう。 オレにはなにもできない。 たまに現れては怪しい術を使う、あかね屋絃蔵の登場である。 いま、絃蔵は風魔小太郎という名を語っている。その名で民衆にばらまいているのは、金だ。けっして、餅まきとか豆まきとか、そんな子供だましではない。 民衆への宣伝に他ならないだろう。 そんな折り、放火による火事が頻発した。風魔小太郎の名を語り、放火して歩いているのだ。しかし、実際に放火しているのは小太郎ではない。亜矢である。 宗矩の命令で絃蔵を誘き出すため、小太郎の仕業と見せかけているのだ。 頻発する火事に目を付けたのは、又八である。これだけ屋敷が燃えているのだから、きっと木が必要となるはずだ。 そこで、木材を買い占めようと考えたのだ。 朱美が湯女で稼いだ金で木曽へ向かう二人なのだった。 亜矢に追われるあかね屋絃蔵。 傷を負いながら駆け込んだのは武蔵の屋敷である。天井裏に逃げ込む絃蔵。 天井からは、絃蔵の血が滴り落ちる。 絃蔵を追って屋敷に入ってきた亜矢に問い詰められる武蔵。しかし、武蔵はしらを切る。 亜矢は諦め、その場を後にした。 絃蔵は武蔵に問う。「なぜ俺を助けたのか」と。 「ここはオレの家だ。」と、事も無げに答える武蔵。 しかし、絃蔵は納得がいかない様子である。 「似合わないことはやめた方がいい」 「オレは剣で生きる道を捨てた。」 絃蔵にも”剣を捨てた宣言”の武蔵である。 又八と朱美は木曽に着いた。木材を仕入れるためである。 そのやり方が凄い。 積んである木材に判を押すと言うのだ。しかも、勝手にこっそりである。 その判は、又八印の判である。 その判を押せば、その木材は又八の物と言う理屈である。 そんな理屈があるかい。 まるで、子供がおやつに唾を付けるのと同じじゃないか。 しかしながら、又八は判を押そうにも、なかなか押すことができない。ビビってしまっているのだ。 それを見ていた朱美は、判を又八から奪い取り、おもむろにその判を押してしまう。 朱美は言う。 「私の度胸をあげる」 まったくもって、頼もしいのである。 豊前の小倉城では、当主の細川忠興と児島備前が密談である。 話題は今売り出し中の小次郎のことだ。 なにしろいまや無敵の小次郎である。 このままでは、小次郎を指南役としている忠利にいいように牛耳られてしまう。 何とか小次郎を倒さねばならない。 そう考えた細川忠興は、児島備前に相談を持ちかけた。誰か良い人材はいないかと。 そこで、備前は武蔵の名前を上げた。 絶対に武蔵を連れてこいと、忠興。 又八が武蔵の屋敷を訪れたときには、武蔵の姿はそこになかった。 いったいどこへ… これだけは言えるだろう。 武蔵はけっして、トイレに行ったわけではない。 byクムラ〜 |