■武蔵を語る■


【第31回 お通、いずこに】

武蔵のよみかき指南所に三之助が訪れる。身なりはすっかりいいとこの坊ちゃんである。
そのいいとこの坊ちゃんが武蔵に言う。
「明日、屋敷に来てくれ」
命令調である。
いくら、いいとこの坊ちゃんだからって、いきなり、武蔵に向かって、「来てくれ」はないじゃないか。
なんとも偉そうな三之助なのだった。
ほんとに武蔵の養子になるのか、この坊主。

結局、三之助に言われたとおり、児島の屋敷に行く武蔵。
屋敷の中に入ると、武蔵は何か不穏な空気を感じとった。
不穏な空気と言っても、酸素濃度が薄い空気とか、ちょっと匂う空気とか、そんな分けないじゃん。
この場合の不穏な空気とは、身の危険を察知させる空気だ。

怪訝そうな顔で、武蔵は児島備前に言った。
「好まぬ者の気配がした。わたしを試すおつもりか」、と…
「細川家に仕官するつもりはないのか」と児島備前。
やはり、武蔵の腕前を試したのである。
それに対し、武蔵はきっぱりと答えた。
「いま、仕官するつもりはありません。私には待つ人がおります。私にはいまの暮らしが大切なのです。お許しください。」
まだ言ってるのである。
そこまでお通に没頭している武蔵は、本当に武蔵なのか、と問いたくなるが、この武蔵はこれがまさしく武蔵であって、捜しても他に武蔵はいない。
ややこしいなあ…

石舟斎は既に桃色吐息、もとい、虫の息である。柳生家では石舟斎の子供、孫らが集まってきた。柳生家オールスター総出演といったところか。蒼々たるメンバーである。
しかし、どれもこれも始めてみる顔ばかりだよ。

この中に、肝心の人物がいない。
宗矩である。
なかなか来ない宗矩を、兄弟達は不信に思う。
そんな中、宗矩の嫁、りんがやって来た。
そして、いきなり兵庫之助の父、つまり石舟斎の長男がりんに向かい怒り出した。
「宗矩は思いやりをなくしてしまったのか」
りんは毅然として言った。大殿様を一番思っているのは宗矩だと。
宗矩をかばうのはいいが、それじゃまるで他の者が大殿を思ってないみたいじゃないか。それもまたケンカを売ってる言動なのではないか。

お通は、相変わらず気になってしょうがない。
約束通り戻って来ない自分を、武蔵はいったいどう思っているのだろうか、と。
もうほとんど、石舟斎などそっちのけである。
そして、お通がそっちのけの中、ついに石舟斎は逝った。

結局、宗矩は来なかった。
兄弟達は兵庫之助に言う。大殿の道をおまえが歩めと…
宗矩は当てにできないと言う意味なのだろうが、
むしろ、押しつけてるんじゃないの、それ。

兵庫之助はお通に頼んだ。笛を吹いてくれと。
こんな状況での笛の音は、けっして楽しい曲ではない。しかしながら、滅法暗い曲もまた困りものなのではないか。ただでさえ暗い気分がなおいっそう暗くなり、ただただ、気が滅入るだけだよ、そんな曲は。

そして、お通は求めに応じて笛を吹く。
曲は、いつもの曲だ。
果たして、レパートリーは何曲あるのだろう。
これ一曲だったりして。
お通の笛の音を聞きながら、石舟斎との日々を思い出す兵庫之助なのだった。

そこへ突然、石舟斎の次男が割り込んできた。
その笛は誰に習ったのかとお通に尋ねる。なんと、その笛の音に聞き覚えがあると言うのだ。
もしかしたら、お通の母上かも知れない。
お通は迷った。母上に会いにゆくか、それとも、武蔵の元へ帰るか。
結局、兵庫之助らに説得され、お通は母を探しに行くこととなった。

母らしき人が住んでいたと言う家へ着いた。
しかし、中はもぬけの空である。
机の上に、一体の手彫りの像が置いてあった。キリシタンのマリア像である。
付近の村の連中に聞いても、誰も居所は分からないと言う。
結局、お通はあきらめ、マリア像を持ってその家を後にした。
いいのか、勝手にひとん家のもの、持ち出して…

豊前に着いた小次郎は、連日、忠利の前で細川家の剣豪らと立ち会いをしていた。
その強さたるや、もう強いのなんのって、その強さは異常だったのである。
小次郎は吠えた。
「例え、弓、鉄砲でも立ち会う。豊前の兵法とはこの程度のものか」、と。
それを見て、忠利は何か釈然としないものを感じた。ただ強ければそれで良いのかと言う疑問である。

そんな中、細川家指南役の実力者、児島ぜん之助(←字忘れた)が小次郎との立ち会いに名乗りを上げた。このぜん之助(まだ思い出せない)、実は、児島備前の息子である。
ふと見ると、小次郎が持っているものは、棒である。しかもかなり短い。
それを見て、ぜん之助(←なんだっけかなあ)は怒った。「完全に舐められている」
しかし、それでも歯が立たなかった。
自分の不甲斐なさ愕然とするぜん之助(←諦めた)

武蔵は児島備前から聞く。
自分の息子、つまり、ぜん之助が小次郎に敗れ、自害したことを。
傍らにいた三之助は武蔵に頼んだ。備前と一緒に小倉へ行ってくれと。
しかし、武蔵に返事はない。いまはただ、お通を待つしかないと言う思い。しかし、お通は遅い、遅すぎる。武蔵の心は揺れているのだった。

そのお通は、急いで江戸に戻る最中なのだった。
途中、関所で止められ、荷物検査を受けた。中に入っていたものは、例のマリア像である。それがいけなかった。
先だって、キリシタンが一揆の先導をしたと言うのだ。
あらぬ疑いを掛けられ、牢屋に入れられるお通。
いつになったら江戸へ、そして武蔵の元へ帰れるんだ。

それにしても、責任持ってお通を送り届けろよ、兵庫之助。

byクムラ〜



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