■武蔵を語る■
【第25回 お通の涙!】 江戸へ向かう武蔵。 その途中、ドジョウすくいをしている少年に出くわす。 ドジョウすくいである。 ドジョウすくいをしているが、別段、鼻の穴に割り箸を突っ込んでいる分けではない。 ドジョウすくいだと言っても、鼻の穴に割り箸という確固たるルールはないからだ。 その少年にドジョウを売ってくれと頼む武蔵。しかし、きっぱりと断られた。 おとうに食べさせるのだという。 なんて、ケチなガキだと思ったに違いないだろう。 その後武蔵は、たまたまその少年の家を通りかかった。中へ入ると、あのドジョウすくいの少年が飯を食べていた。武蔵に気付いた少年は言う。 「食うか?」 食うか、って、おまえ。 とにかく、ふてぶてしいのである。 その少年の名前は、三之助と言うらしい。 武蔵が父さんのことを尋ねると、おとうはいないと言うではないか。 確か、あのとき父さんがいると言ったはず。 不思議に思いながらも、武蔵はその夜、その家へ泊まった。 隣の部屋で、何やら不審な音が聞こえる。どうやら、はた織り機の音ではないようだ。 ツルの恩返しだよ、それ。 覗くと、三之助が刀を研いでいるではないか。 振り向きもせず、三之助は言う。 「これで人間の胴が切れると思う?」 「誰を切るんだ?」 「おれのおとうを…」 武蔵は驚いた。 なにしろ自分の父を切ると言うのだ。これ以上の極悪人がいるだろうか。 良く聞いてみると、切らないと運べないと言う。 武蔵は最初、冗談で言っているものと思った。しかし、その事実を知って納得した。少年の父はすでに死んでいたのだ。 亡骸は隣の部屋である。ついさっき死んだばかりだと言う。 そんなことを、まるで人ごとのように、淡々と言ってのけるのだ。なんと、肝が座っていることか。 武蔵はその子を不憫に思ったのか、金を渡そうとしたが、「いらない」と受け取らない。死んだ父の言いつけだと言う。 なんとも芯のしっかりした子である。 そして、武蔵は、三之助と共にその子の父を運び、葬ってやった。 再び、江戸へと向かう武蔵に、なぜか付いて来る三之助。 聞いても、たまたまだ、と言い張る。 そうこうしているうちに、見知らぬ男二人が、三之助にちょっかいを出してきた。 荷物を奪う魂胆なのだろう。 しかし、三之助はやはり普通の子供ではなかった。その男らを叩きのめし、追っ払らったのだ。見事である。しかも平然としている。なんともニヒルな子供なのである。 実はこの三之助、後に武蔵の弟子となり、そして養子となるあの伊織である。 伊織は実在の人物であり、武蔵亡き後、武蔵の功績を伝える重要な役目を果たした。 小説上ではその後、驚くべき事実が判明する。三之助の身の上におけることなのだが、ネタバレなるから言わないほうがいいな、こりゃ。 一方、お通は、相変わらず又八の介抱を受けているし、やっぱり気がおかしいのである。 なにしろ、又八が差し出した飯にまで驚く始末である。 ある日、又八は商い用のいわしを持って、弥次兵衛宅にいるお杉婆を尋ねた。 ここでまた、又八は間抜けなことをやってのけた。又八の家にお通がいることを言ってしまったのだ。 案の定、目の色が変わるお杉。 又八の家へ行くと、正気でないお通がいる。そんなお通を見て、お杉は言った。 「おまえを捨てたこんな女など捨てよ」と… だがしかし、考えてみれば願ったり叶ったりではないか。 お杉から別れ話を切り出してきたのである。これ以上、お杉婆に付きまとわれなくてもよいのだ。 それにしても、感心するのは又八である。 お通が、ただボーっと宙を見てようが、夜中に悲鳴を上げようが、まったく苦にすることなく面倒を見ているのだ。 だがしかし、それも報われないのだろう。なにしろ今のお通はかなりおかしいからだ。 又八のこの苦労を、お通は何も覚えていないのではないか。 なんとも不憫な又八である。 正気に戻ったときのお通が見ものだよ、うん。 お通を銭湯に連れていく又八。 そこで、朱美とばったり会う。ここで働いていると言う。 朱美はお通とは、これが初対面である。 そんなお通を見て、「これがお通さん…」と何度も呟く朱美。 お通を見て、朱美はどう思ったのだろう。「とても勝てない」とでも思ったのではないか。 なにしろ、お通は”いっちゃってる”からだ。 一方、小次郎である。 半瓦弥次兵衛が小次郎に言った。 「おまえのことを知っていると言う女が遊郭にいる」 小次郎は「見に覚えがない」と言うが、その遊郭へ行ってみると、そこにいたのは、なんとお篠だった。予想通りだけど… 小次郎が驚いたのは言うまでもないし、まつぼっくいに火が付くのも明かだろう。 この先、その三角関係がどのようにもつれるのだろうか。 byクムラ〜 |