■武蔵を語る■
【第22回 対決!宍戸梅軒】 宍戸梅軒の女房は武蔵に向かって言った。 「来るかい?うちへ…」 「はい」と間髪入れずに武蔵。 武蔵に取っては、願ってもないことなのである。 なにしろ、未知の武具、鎖鎌をこの目でじかに見ることができるのだ。 もしかしたら、かぶりつきかも知れない。 しかも無料だ。ご招待なのだ。 梅軒の家へ案内される武蔵。 そこには横に子供を置いて、鍛冶仕事をする梅軒がいた。 「鎖鎌について話を聞きたいそうだな。酒を飲みながら話そうではないか。飲み干したのち、鎖鎌の技を見せる。」と梅軒は言う。 そして、酒をご馳走になる武蔵。 そのうち、梅軒は技の説明をし始めた。やけにご丁寧なのである。それを見ていた女房のかつは、「おやめ」と厳しい口調で言う。確かにそうだろう、これから仇を討つ相手に手の内を見せるようなものだからである。 しかし、梅軒は聞かない。「いいから酒を勧めろ」と女房に言う。 更に一手一手の説明をする梅軒である。 そんな梅軒が、まさか自分の命を狙っているなどと言うことは、これっぽっちも思っていない武蔵なのだった。 武蔵は梅軒の家へ泊めて貰うこととなった。 梅軒は武蔵の寝首を襲うつもりなのである。 あまりフェアーではないが、目的は仇討ちである故、方法はこの際二の次なのだろう。 武蔵が寝た頃を見計らって忍び寄る梅軒。そして、布団の上から切りつける。 しかしすでに武蔵はそこにはいない。 武蔵は、風車が風になびくのを見て、扉が開いたことを事前に察知したのだ。 このように武芸者は、寝ている間でも隙を見せてはいけないのである。これじゃあ、いつまでたっても熟睡できやしないのである。 話によると、実際の武蔵は風呂に入らなかったらしい。 隙ができるからである。 湯船に浸かった状態で襲われれば、ひとたまりもないからだろうが、それにしたって、生涯風呂に入らないのはいかがなものか。 襲われるうんぬん以前に、誰も近寄らないよ、それじゃ。 武蔵の寝首を襲ったことをを知った女房は梅軒に向かい、こう怒鳴った。 「卑怯者!」 「正々堂々となぜ勝負しない。」と… 女房の方が、男らしいのである。 それに対して梅軒は答える。 「子供とおまえのせいだ。お前たちをおいて死にたくないと思った。」そう言って、梅軒は急に泣き出した。 それを見て、悪かったと謝る女房。 やはり、男らしいのは、女房の”かつ”なのだった。 いよいよ梅軒との対決である。 今度は正々堂々の勝負だ。 武蔵はここで、自分が梅軒の兄の仇だと言うことを知る。 「向かって来たから倒しただけ」と武蔵。 「こんなにいい女房がいる、争いはよそう」と刀を収める。まったく闘う気のない武蔵なのだった。 そんな武蔵を見て、梅軒は「かたきなんかは関係ない、俺はお前に勝ちたい、それだけだ。」と武蔵をけしかける。 そこまで言われれば、武蔵も後へは引けない。再び刀を抜く武蔵。 いよいよゴングである。 剣vs鎖鎌。これはもう異種格闘技戦だろう。 鎖をぶんぶん振り回す梅剣。そして時折、飛んでくる分銅。 なかなか踏み込めない武蔵。 しかし、中に入らねば勝機はない、そのジレンマ。一歩間違えれば、その分銅が頭をえぐり取ることだろう。 武蔵は無意識のうちに小太刀を抜き、二刀で構えた。 二刀流である。 武蔵は二刀流の創始者と言われているが、この梅軒との対決が二刀流開眼のきっかけであると言う説もある。 そして、ついにその分銅がうなりを上げて武蔵目掛けて襲いかかった。 とっさに身を交わす武蔵。しかし、懸念していた通り鎖が剣に絡み付く。 じりじりと引き寄せられる武蔵。 このままでは、自由を奪われたまま、鎌の餌食になるのは間違いない。 とっさに武蔵は小太刀を梅軒に向け投げつけた。 梅軒は身を翻しそれを避ける。 と、次の瞬間、武蔵は鎖の巻き付いた剣をも投げ捨て、それと同時に梅軒の懐へ飛び込んだのである。 そして、梅軒の刀を素早く奪い取り、その刀で梅軒の体を突き刺したのだ。 武蔵の勝利である。 梅軒は死ぬ間際、武蔵に頼んだ。 女房と子供を故郷に送り届けて欲しいと… そして、息を引き取る梅軒。 号泣する女房なのだった。 お通は、祇園藤次らに捕えられる。 何日も飲まず食わずだ。 お通はお甲に「死にたくない」と命ごいをする。 お甲はお通に飯を差し出す。 出された飯を、両手を縄で縛られ自由の利かないまま、むさぼり食うお通。 その様は、なんか凄いのである。 お通のイメージとはほど遠いありさまなのである。 お通は更に、お甲に訴える。 「生きていたい。私には会わなければならない人がいるのです。言わなければならないことがあるのです。江戸に行かなければならないのです。」 お甲はその鬼気迫るお通を見て何を思ったのか、お通を逃がした。 それを知った祇園藤次一味は、慌ててお通を追う。 武蔵は梅軒の女房”かつ”と、その子供を連れ、目的地である、かつの故郷へ向かう。 そんな道中、「あんたの仇は取る」と武蔵の後ろで呟く、”かつ”なのだった。 byクムラ〜 |