■武蔵を語る■
【第20回 家康暗殺!】 ここのところ、もっぱら歩いてばかりだった武蔵に、とうとう変化が訪れた。 住み着いているのだ。 住み着いていると言っても、縁の下に穴を掘って住み着いている分けではない。 それじゃまるで、イタチだよ。 そこは木地師の家である。 どうやら、木地師の技に魅せられたらしく、それを会得する魂胆なのだ。 もともと武蔵は、剣術だけではなく、芸術に関しても非常に興味があったらしく、しかもその素質、技術はかなりのものであった。 特に、武蔵の絵画、彫刻は有名であり、確かに残された武蔵の作品を見ると、それはまるで玄人はだしであり、オレなんか足下にも及ばないのである。当たり前だけど… お通と城太郎は、城太郎の母を捜すため、方々を尋ね歩く。 城太郎は、もういいから江戸へ行こうと言うが、お通は絶対探し出すんだと聞かない。 そして、ついに城太郎の実家を突き止め、城太郎の母との対面。 しかしながら、いきなり、「これがあなたの息子です」と言われても、普通は困るのではないか。 なにしろすでに確固たる家族を築いているのだ。そこへ、いきなり、現れるのだ、もう一人、息子が… 普通ならば、「おまえなんか知らない」の一言で終わりか、ひたすら無視を決め込んで行き去るのを待つのではないか。 しかし、親子の絆なのだろう。母は城太郎をしっかり受けとめたのだ。 戸惑うのは城太郎の方である。そりゃそうだろう。いままで、母と言う存在を経験したことがなかったのだから。 お通は、自分の役目は果たしたとばかり、その場を後にしようとする。そんなお通に向かい、城太郎は、「オレも行く」と言う。しかし、今回のお通は、いつもの優しいお通ではない。 城太郎をいきなり殴ったのだ。 殴ったと言っても、張り手である。 やはり、ゲンコツ、分かりやすく言えば、グーパンチ。これはまずいだろう。ややもすれば、KOと言うこともあり得るからだ。 予定外のKOは慌てるのである。 殴った後、お通は「お母さんのところに行きなさい!」と、いままでにない強い口調で言ったのだった。 ついに城太郎との別れである。 何度も「お通さん!」と叫ぶ城太郎。 しかし、お通は振り向かない。いくら忘れ物があったって、二度と振り向くことなく行くしかないのだ。 江戸入りした又八は、あかね屋絃三から家康殺しを正式に命ぜられた。 その任務はことのほか重い。 なにしろ、家康殺しである。 殺しと言えば、牛殺しも確かに凄いが、家康を殺すことに比べれば、まだまだである。 何を言ってるんだ。 とにかく、その任務は一か八かの大勝負であり、失敗すれば張り付け処刑が待っているのだ。 そんな状況の又八は、つい朱美にそれを打ち明けた。 それが結果的に彼の運命を変えた。 神社で又八の祈願をする朱美は、隣で同じく又八の祈願をするお杉婆とばったり出会う。 そんなばったりってあるかい。 そして、朱美は又八のことをお杉婆に話したのだ。 そのお陰で、又八はその任務を実行する前に捕えられる。 罪状は、松の木泥棒未遂である。 家康殺しが一転、松の木泥棒である。いかにも又八らしいではないか。 これらはすべて、又八を救うため、お杉婆が仕組んだことである。 それでも罪は罪であり、格別のはからいと言うことで百叩きの刑となった。 そんな又八に向かい、朱美は「ごめん」と謝るばかりなのだった。 しかし、又八は別段、それに対し怒ると言うことはない。 又八も内心ホッとしていたのではないか。 自分にそんな大それたことなどできる分けがないと思っていたに違いない。 お杉婆は、又八に言う。朱美を嫁にしてもよい、と… 戸惑う又八なのだった。 小次郎は毎日、荒くれどもの指南だ。 荒くれどもが大人しくなったと喜ぶ弥次兵衛。 はたして、喜んでいて良いのか、弥次兵衛。 荒くれどもが大人しくなったらどうなると思ってるんだ。 ただの、腑抜けどもである。 荒くれどもはやはり、荒くれであることに価値があり、またそれを指揮することによって弥次兵衛の存在感があるのではないか。 今回歩いているのは、武蔵ではなく、お通だ。 城太郎がいなくなった今、ひたすらひとりで歩くお通なのだった。 byクムラ〜 |