■武蔵を語る■


【第17回 おのれの道!】

相変わらず回国修行に歩く武蔵。
そんな武蔵を狙う男達。いまや有名な武蔵である。その武蔵の首を取れば仕官の道が開けると言って付け狙うのだ。
しかし、そんな半端な実力では武蔵にかなうわけもなく、一度に数人を相手にしても、素手で伸してしまう武蔵なのだった。

道中、武蔵は浪人に出会う。
名前を聞いて驚く武蔵。武蔵が幼少の頃から知っている有名な剣士だったからだ。
もしかしたら子供心に憧れていたのかも知れない。
その名は、田口幻竜。
誰だ、それ…
なにしろその剣術の実力は、目をつぶってでも相手を倒すことができたと言う、そんな噂だったのだ。
目をつぶったまま戦う。
確かにそれは凄い。しかしそれなら、始終目が見えない状態で戦う座頭市ってのは、もっと凄いのではないか。
一度、武蔵対座頭市の試合を見てみたいものだ。

その田口幻竜もまた、仕官を望む侍の一人であった。
この頃、関所破りが横行していたのだが、それを捕えればもしかしたら仕官の道が開けるかも知れない。そう思った幻竜はたまたま出くわした武蔵と共に関所破りの浪人達と立ち回りを演じ、そして捕えたのだった。

幻竜は武蔵を知らない。これだけ有名な武蔵をだ。
どこにでもいるものである。流行に疎い人間は…
関所破りを引き渡した二人は代官の元へ。幻竜は期待した。きっと仕官の話があるに違いないと。
そして、その期待通り、仕官の誘いがあったことを聞き、幻竜はワクワクして報告を待った。しかし、仕官の話があったのは、幻竜ではなく、武蔵にであった。
幻竜はきっと、ずっこけたに違いない。
このとき、初めて武蔵が何者であるか知ったのだった。

「仕官を望んでいるのは、田口殿だ。」
武蔵は言ったがそんなことは聞き入れてくれない。
なにしろ、武蔵の方が有名だからだ。

幻竜は、こうなったらどんな形でもいい。妻子を呼び寄せるために仕官したい一念なのだ。そして、武蔵に兵法指南役を勧める。そして、自分は武蔵の下でも良い、と言うのだ。
なんだか、情けないよ、情けない。
しかしそれほど妻と子供を呼び寄せたいのだ。

そこで、代官側から案が出された。
どちらか勝ったほうを300石で召し抱えると言うのだ。
ありがちな話である。
因みに300石は、いまで言うと年収600万である。
まあ、それくらいならいいかな、と言ったところである。

武蔵はバカらしいと、そこを去ろうとする。しかし、幻竜はそうはいかない。
「ここで去ると言うのならお主を切るしかないのだよ」
そう言って幻竜は武蔵に立ち会いを迫った。

仕官を申し伝えに来た役人と二人は飯を食べる。
部屋の中ではさっきからハエが飛んでおりうるさいことこの上ない。
そんなハエを見て、役人は幻竜に問うた。
「飛んでいるハエを食べられますか」
食べてどうする。カメレオンじゃないんだからさ。

食べるんじゃなく、飛んでいるハエを切れるか、とけしかけたのである。
武蔵は見せ物ではないと怒るが、幻竜はあっさりハエを切って見せた。これもまた自己アピールの一つだったのだろう。

そして二人は立ち会った。
しかし、もはや武蔵の実力は果てしない。あっさりと幻竜に打ち勝つ。
「オレを切れ!」と叫ぶ幻竜。しかし武蔵はそのままその場を去る。
幻竜は泣きながら「武蔵が逃げた」と叫ぶ。
武芸者の誇りを捨てた、成れの果てである。

あかね屋絃三。何度か登場している何やら怪しい術を使う男であるが、てっきり原作にはいない登場人物だと思われた。しかしこの正体が分かった。
奈良井大蔵である。
これなら原作に登場していたのである。
この男、表向きは薬草問屋の主人として有名で、しかも神社仏閣に多大な寄付をしていたため、民衆の大きな信望を得ていたのだ。しかし、実は裏の顔がある。と言うか、それが真の顔であると言えるだろう。
幕府転覆を企てる大泥棒なのである。

ここでちゃっかり雇われているのは、又八と朱美なのだった。
二人は、大蔵から指示された薬を調合し、なにやら怪しげな液体を作る。
なにしろ二人はケンカしながら作業するものだから、その液体を池にぶちまけてしまった。すると中の鯉がぷかぷかと浮いてきたではないか。その液体に毒があったのは明らかだ。
それにしても、その後、その鯉をどうしたのか、気になってしょうがないのだった。
気になるかも知れないが、いちいちそんな細かいこと気にするなよ。

光悦の屋敷で幸せに暮らす、お通。
しかし、次第にお通の心は揺れ動いて来た。
「ほんとに、ここにいていいのか」と…

ここには、宗仁と言う、お通に思いを寄せている若い職人がいる。
だがしかし、その思いを言えないじれったい奴なのだ。
お通は、宗仁に言う。
「わたくしに、ずっとここにいろと言って下さい」
すると、どうしたことか、宗仁はいきなり、お通が作っていた屏風を破り始めたではないか。
「これでいいんですよ、お通さん、これでいいんです。」
何がいいんだ、それ。
つくづく分からない男である。

泣き出すお通。
そして、ついにこの屋敷を出ていくことを決意したのだった。

再び、武蔵を追って旅に出るのだ。
そんなお通に城太郎は付いて行くという。
確か、日本一の焼物士になるんじゃなかったのか、おまえ。
これじゃあ、日本一のお通の用心棒じゃないか。
子供ってのはこんなものである。

byクムラ〜



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