■武蔵を語る■
【第16回 伊達の刺客!】 夜の雨の中をさまよう武蔵は、雨宿りをさせてもらおうと、ある家を尋ねた。 中から男が出てくる。非常に暗そうな男だ。 奥には女がいるようだ。女房だろうか。 お篠である。 あの遊女歌舞伎の踊り子であるが、その正体は伊達政宗の妹である。なぜ、こんなところにいるのか。 武蔵がお篠を見て一瞬驚くかと思ったが、武蔵はお篠とまだ面会がないのであった。オレの記憶違いである。 そもそも原作にお篠なんていないし。 そして、武蔵はその家にやっかいになる。 武蔵の着替えを持ってくるお篠。やけに優しいのである。 それにしてもここに住むお篠と男。何か分け有りの匂いがする。 その男の名は休雪。 もともとは伊達政宗の命を受け、お篠の命を狙ってきた忍びである。 なぜ、お篠の命を… お篠が持っているはずの、徳川に反旗を翻す伊達政宗の秘密文書を取り返すためである。しかし、なぜかいま、一緒に暮らしている。 惚れちまったのだろう、休雪がお篠に。 しかし、お篠はまだ、そんな休雪の気持ちが分からないし、休雪もまた、自分の気持ちが分からないでいる。 そんなこんなで、ぼやぼやしてたらいつの間にか二人とも追われる身となってしまっていたのだ。 なぜかお篠は武蔵に滞在を勧める。 自分の命を狙う休雪から守ってもらうつもりなのだ。 武蔵はお篠から小次郎を知っていることを聞く。武蔵に良く似ていると言うのだ。その負けず嫌い加減が。 武蔵は小次郎の存在を改めて思い出す。 出発を決める武蔵。 休雪は留守だ。ワラビ取りへ出掛けている。 この非常時にワラビ取りかよ。 食うためにワラビ取りは必要なことなのかも知れない。 お篠は武蔵に懇願する。「もうしばらくいてください」と。 「あなたがいなくなれば、私は首を取られます。あの人は私を殺しに来たのです。なにかのはずみで共に逃げることに…」 「なにかのはずみ」である。 なにしろ「なにかのはずみ」で一緒に逃げることになったらしいのだが、その「はずみ」ってなんなんだよ。はずみの意味が肝心なのだが、お篠はさっぱり分かっていないのだった。なんて鈍感な女なんだ。 ワラビ取りから帰ってきた休雪は、二人を見てその異変を察知する。 「なにを言ったんだ」 休雪はお篠に攻めよった。 お篠の顔色から、何を言ったのかすぐに感じとった。 「出て行ってくれ、武蔵殿」 怒鳴られた武蔵はこう言った。 「私には関わりはないことだが、私が行けば殺される」 「さては惚れたな?」 返す刀で、休雪からそう言われた武蔵は憤慨する。 「惚れた惚れぬなどと言うことではない!」 ついに出た。いつもの力一杯の歌舞伎口調だ。 そして、いきなり二人は剣を抜き、合いまみえる。 しかし、なかなか踏み込めない二人。 休雪が呟く。 「おぬし、ただものではないな。伊達の回し者か?」 武蔵がただものでないことを見抜く休雪。 「ただものではない」 なんていい響きなんだ。 オレは、昔から「おぬし、ただものではないな」に憧れていた。 言われたい言葉、ナンバーワンである。なにしろただの「ただもの」は嫌なのだ。 そんな人の中にはこんな人もいる。 「牛乳を鼻から飲み、目からピューっと出す」 ただものではないのである。 確かにこの人もただものではない。しかし、そんなただものではない人は嫌だなあ。 そうこうしているうちに、矢が飛び込んで来た。3人はすっかり取り囲まれているようだ。 伊達の刺客達である。その数、8名。 出で立ちは忍者だ。その身軽さはまるで体操選手であり、武蔵と休雪はかなり手こずる。 そして、腕に毒矢を射られる休雪。毒が体に回ったら、一貫の終わりである。 だったら吸うしかないだろう。 毒は吸うのが一番。「急いで口で吸え」だ。 それは、毒蛇の場合だったような気もしないでもないが、とにかく、苦しむ休雪の腕を慌てて吸い始めたお篠なのだった。 しかし、吸ってるそれは、やっぱり毒なもんだから、お篠もまた調子が悪くなる。 今度は休雪がお篠に毒を吐かせようと、口移しで水を飲ませる。 ひとまず整理しよう。 吸う、口移し、吐く、吸う、口移し、吐く… そのプレーはなかなかのものである。 専門的に言えば、それは連係プレーとも言える。 そして、休雪はお篠に尋ねる。 「なぜ俺を助けたんだ」 そう言われ、なぜか泣きだすお篠。 「私には行くところがない。私もあなたもお互いいなければ生きていけないのです」 「そうだ」ときっぱり答える休雪。 ついに互いの心が分かり合った。 あの分からなかった「はずみ」が解明された瞬間である。 すっかりいい話になってしまった。 気が付いたら、武蔵はそっちのけである。 そっちのけの武蔵は、ふとこう思った。 「俺はあのようにお通を必要と思ったことがあっただろうか」 一方、小次郎とお琴に大事件が発生していた。 お琴を狙った野党らを相手に合いまみえる小次郎。 そして小次郎の背後から襲いかかり切りつける男。 その男から小次郎をかばおうと身を乗り出すお琴。 その瞬間、無惨にも、小次郎を狙った刀は、お琴の顔に… 女の命である顔にである。 そのとき、以前小次郎がお琴に言った言葉が思いだされた。 「綺麗でなくなったとき、俺はお前を捨てる。」 そんな運命のときが、いきなり来てしまったのか。 byクムラ〜 |