■武蔵を語る■
【第14回 美は美なり!】 名目人である少年、源次郎が控えている下がり松。その裏から突入する武蔵。 吉岡勢が気付いたときには時既に遅し。武蔵は源次郎を切った。 「総大将切ったり」と武蔵は勝利の雄叫びを上げる。その表情はまさに修羅だ。 吉岡勢が血相を変え、武蔵に襲いかかる。こうなったら、武蔵を生きて返すわけにはいかないのだ。 いつの間にか、二刀を手にする武蔵。無意識のことだったのかも知れない。相手は多勢である。武器は一つでも多いに越したことはない。 いまでこそ、二刀流で有名な武蔵だが、この戦いで二刀に開眼したと言う説もある。 しかしながらいくら武蔵が強いと言っても、相手の数が半端ではない。しかも鉄砲や弓など飛び道具も襲いかかってくる。それにしたって、当たらない、当たらなさすぎる。当たったと思ったら、それは味方だよ、あんたたち。 しかしながら数撃ちゃ当たるもので、さしもの武蔵も腹を刺される。しかし、腹を刺されるも、まるで夢遊病者の様にふらふら歩きながら刀を振り回す武蔵。 武蔵のその異常さに、皆、攻撃を躊躇する。 ちょっとばかり違和感を覚えたことがある。武蔵の戦い振りだ。 ドラマの武蔵の戦い方は、実に静かだ。相手の攻撃にもいまいち精彩がないと言うか、迫力がない。原作でのイメージとはかなり違うのだ。 原作の武蔵はなにしろ走り回ったのではないか。それを追い掛ける吉岡勢。まさに無我夢中と言った感じである。そして武蔵は理にかなった戦い方をする。相手が多勢であることを考慮し、細い道へ誘い込むのだ。そのような中で向かい会えば、相手は一斉に武蔵に襲いかかることはできない。したがって武蔵は眼前に来た相手を順番に片付けていけばいいことになる。 ドラマでその辺の描写がなかったのは残念である。 そして、武蔵の前に祇園藤次が立ちふさがる。 藤次も必死である。これから名門吉岡家を自分のものにするという目的がある以上、武蔵一人に負けた吉岡家ではかなりまずいからだ。 しかし、いま武蔵はちょっとどうかと思うほど普通じゃない。 普通じゃないだけに、藤次の刀の刃を普通に掴んでしまう武蔵。 五感がどうかしている。まるで、びっくり人間である。 呆気に取られる藤次。武蔵は刀を掴んだまま、藤次の腕に刀を振り下ろした。 かくして、武蔵対吉岡家の戦いは、たった一人の武蔵の勝利で幕を閉じた。 一方、お通である。 くたくただったお通は、なおいっそう、くたくたである。 くたくたどころか、ちょっと気が変になっている。 武蔵の戦い振りを見ていたからである。 見ていたって、あんた。ここは競技場ではない。 いったいどこから見てたんだ。 しかし見ていたようである。お通どころか、観客は皆、、、 そんなお通を見て心配になり声を掛ける城太郎。 「もう、ほっといて…」 いきなり、ほっといてはないじゃないか。 完全にいっちゃってるお通なのだった。 そんなお通の元へ武蔵が戻って来た。 しかしお通の表情はいつもの表情ではない。そして武蔵に向かって言う。 「武蔵が恐い。なぜ、子供を切ってまで名を上げたいのよ」 「分かってくれ、分かって下さい。あれしかなかったんだ」 武蔵はそう言うやいなや、お通に抱きつき覆い被さる。 突然のことに呆然とするお通。 武蔵の背中を棒で叩く城太郎。 まるで犬扱いだよ、それ。 お通は言う。 「私は武蔵を追い掛けて旅をしてきた。命を懸けて武蔵を追っていこうとした。だけど、いまの武蔵は私の思っていた武蔵と違う。武蔵が恐い。」と… それを聞いた武蔵は呆然とする。 身を清めるため小屋で仏像を彫る武蔵。 清めるには仏像なのだ。ガンダムではダメである。 そこへ突然、お杉が乗り込んできた。 いつものように凄い形相だ。本気である。 そして、いきなり持っていた吹き矢で武蔵の目を射るお杉。 突然のことに、何が起きたか分からない武蔵。まさかお杉からこんな技が出てくるとはまったく思いもしなかったのだろう。まさに隠し芸である。 感心している場合ではない。 なにしろ激痛である。しかも両目ともだ。そんな武蔵にとどめを刺そうとするお杉。慌ててそれを止めようとする権爺。 武蔵は目をおさえ、必死にそこから逃げた。 それにしても凄いのはお杉だろう。 相手はあの吉岡の門弟達を束にして片付けた武蔵である。それを手玉に取ってしまったのである。何やってんだよ、武蔵。 いつの間にやら看病をされている武蔵。 看病してくれているのは、あの吉野太夫である。 どこまで偶然なんだ。偶然が過ぎるような気もするが、気にしても切りがないのでやめておく。 太夫は相変わらず凄いことを言っている。 武蔵の目が治ったら、真っ先に美しいものを見せてあげたい、と言うのだ。 その美しいものと言うのは、自分のことに他ならない。 なんなんだ、あんたは… 数日後、包帯を取る武蔵。 そして、目の前にあったもの、それは… 脱いでるよ。誘ってるよ。 そして、その後、太夫の口から出た言葉がまた凄い。 「わたくしを美しいと思いますか」 そんなに自信満々に言われたってなあ。 しかし、武蔵は実に素直に、「思う」と一言呟いたのだ。 そしてまた、次の言葉がとどめを刺した。 「わたくしを抱きなさい」 抱きなさいときた。 なんで命令口調なんだ。 なにがそこまで高慢知己にさせるんだ。 しかし、いまの武蔵にそんなことはどうでもいい。完全に”とりこ”になってしまっているのだ。 「とりこ」 鳥のこっこではないし、トリコロールでもない。 虜と書いて”とりこ”だ。当たり前である。 そうなってしまったら、もうどうしようもない。武蔵はただの一人の男だ。 「何をやってるんだ、武蔵」と愚痴のひとつもこぼしたいところだが、ただの一人の男になってしまった以上、すでに誘惑に打ち勝つ気力もなく、男としてすべきことをやってしまったのだった。 こんなことお通にばれたらどうするつもりなんだ。 そんなことを心配するドラマは、大河ドラマなんですか。 byクムラ〜 |