■武蔵を語る■


【第8回 いざ!柳生の剣】

とにかく柳生石舟斎に会いたいばかりの武蔵。
柳生の屋敷近くまで来て、また笛の音が聞こえてくる。お通の笛である。
思わず、その笛の音に耳を澄まし、そのまま固まってしまう武蔵。
今風に言うならば、フリーズである。
そんな武蔵を見て、城太郎は言う。
「師匠、気がおかしくなっちまったのか?」
笛の音を聞いて気がおかしくなるのは、キカイダーくらいのものである。
いまどき、誰も知らないよ、ギルの笛なんて。
なにしろ、お通がそこにいるなどと言うことは、まったく思いもしないことであった。
そして、念願叶い、柳生の屋敷へ入ることを許される。
石舟斎もまた、武蔵に興味を持ったのだ。
茎の切り口を自分のものと見抜いた男である。よほどの人間と見込んだのだろう。

武蔵を迎える前日の夜。石舟斎はいきなりお通にお使いを頼んだ。
漬け物が食べたいと言い出したのだ。
よりによって、漬け物である。
わがまま爺さんにもほどがある。

それを聞いた、兵庫之助は、「こんな夜に女一人ではぶっそうではないか」とふくれっつらで言い返す。
「当然、おまえをお共に付ける」と石舟斎。
その瞬間、兵庫之助はこう思ったに違いない。
「ラッキー!」
しかし、それを顔には出さない兵庫之助。
ただ照れるだけなのである。

かくして、夜中に漬け物を求めて出掛ける二人。
だがしかし、なぜわざわざ二人で行く必要があるんだ。
漬け物だよ、漬け物。
兵庫之助一人でこと足りるではないか。
そう疑問に思わなかったのだろうか。
石舟斎は感づいていたのである。
お通が探し求めている相手、それが明日会う武蔵であると言うことを。

明くる日、武蔵と石舟斎はご対面する。
ご対面するなり、睨み付ける武蔵。
武蔵は武芸者と会ったらとにかく立ち会いである。強い相手と立ち会わずにいられないのだ。
しかし、武芸者との立ち会いはしないと石舟斎からはつれない答え。
その言葉に武蔵はがっかりである。

しかし、話をしている内に、武蔵のその一途さが石舟斎の心を動かした。
立ち会ってくれると言うのである。
こんなことは例外なことなのだろう。

武蔵に竹刀を渡す石舟斎。
この頃からなのか、剣の稽古に竹刀を使い始めたのは。
武蔵も竹刀を持つのは初めてだったようだ。

そして、おもむろに構える石舟斎。
なんだ、その構えは。
あっけに取られる武蔵。
そりゃそうである。
手には何も持たず、しかも手をぶらりと下げ、その格好はまるで猿である。
ガードくらいしたらどうなんだ。
ボクシングではない。

なにしろ、そんな構えで、武蔵に「来い」と言う。
来いと言ったって、そんな構えである。
あっけに取られ、なかなか踏み込めない武蔵。
しかし、それではいつまでたっても勝負にならない。
そして、ついに打ち込む武蔵。
しかし、いとも簡単に捌かれ、竹刀を取られてしまう。
何度、打ち込んでも同じである。
唖然とし、打ちひしがれる武蔵。

そんな武蔵に石舟斎は言う。
「風の音は聞こえたか?」と。
なにを言い出すんだ、急に…
なにしろ風の音であるし、鳥の声だ。
掃除機の音とか、ライオンの遠吠えとかではないらしい。
「掃除機の音は聞こえたか?」
そう言われたところで、それだけ音が大きけりゃ、誰だって聞こえるよ。
そもそも、そんなものどこにあるんだ。

石舟斎は、「立ち会っているときに、風の音を聞け」と言う。
それだけ心の余裕を持てと言うことなのだろう。
とてもじゃないが、常人には不可能なことである。
武蔵だからこそ、言った言葉なのだろう。

屋敷を後にする武蔵。
「どうだった?」と問う城太郎に対し、武蔵は答えた。
「広いなあ、世の中と言うものは。オレは、まだまだ狭い」と。
歯は立たなかったが、その顔にはよどみはない。
むしろ、らんらんと輝いているのだった。

一方、埋蔵金発掘に誘われ、まんまとその誘いに乗った又八。
結局、騙され、監禁状態の中での発掘作業の憂き目に会う。
まったくもって、馬鹿者である。

小次郎はいつの間にか、他人の奥方、琴といい仲になっている。
と言うか、あれ以来、琴の方が小次郎にぞっこんなのである。
そんな中、小次郎は京に行くと言い出す。
京の燕が切れるかどうか試したいと言うのである。
何が違うんだ、京の燕。
いいもの食ってるのかも知れない。
京だからな。

謎の旅芸人の女、お條が、伊達政宗の妹だったことが明かされる。
家康に差し出すと正宗の命が危ないと言う誓約書を持っているのだが、それを取り返しに来た者の前で焼いてしまう。
それにしても、伊達政宗である。
原作には登場しなかったのではないか。
しかも、かなりの悪者扱いである。
この先、武蔵との間に、どのような展開を見せるのだろうか。

byクムラ〜



|Back|  |Next|

|Top|