■たわごとですかーっ!!■



▼02/04/14【小銭入れは試練】

格好の悪い行為はいろいろあるだろう。
しかしこれほど格好の悪いことはないのではないか。
チャックが壊れる。
この場合のチャックは、小銭入れのチャックである。
それがいったい何を意味するのか。

店でちょっとしたものを購入し、レジで支払いをする。
ちょっとしたものであるから、オレの研ぎすまされた頭脳は即座にその支払いに必要なものは小銭入れであると判断した。
左のポケットから小銭入れを取り出し、中から小銭を取り出そうとチャックを開けるべく指を掛ける。
そしてそのとき、思いも掛けない事態がこのオレを待ち受けていたのである。

チャックが開かない。

くれぐれも社会の窓のチャックではない。
勘定を払うのにいちいち社会の窓を開けるやつがいるかい。

いま、小銭入れのチャックが開かないのである。
なにしろそんなことはめったにあることではないし、ただごとならない突然のアクシデントに動揺は隠せない。
払いたくても払えないジレンマ。店員の視線も分かるし、オレの後ろに立ち並ぶ民衆も、見て見ない振りをしてはいるが、オレにはその気持ちが痛いほど分かる。
「ごめんな、みんな…」

「ボクはチャックファスナーと言いま〜っす。」といきなりアメリカ人くずれの振りをして、おちゃらけて見せたところでいったいなんになると言うのだ。なんの解決にもならないだろう。
したがってこの場合の対処として最も適切な方法は、ただひたすら真剣な顔をして、小銭入れのチャックを開ける努力をすることであるし、またそうして見せるのが誠意であり、エチケットではないか。それでこそジェントルマンと言えるだろう。

ただ注意しなければならないことは、開けることに没頭するあまり、口を左右にひん曲げたり、ましてや腰をやや落とし気味にガニ股であったりしてはいけないということである。
なぜならそれはすでにジェントルマンではない。ただの、ゼニトルマンだ。
我ながらうまいこと言うなあ、しかしいまダジャレてる場合ではない。

努力の甲斐あってなんとか小銭入れのチャックは開いた。努力はいつかは報われるものである。
ホッとして店員にお金を渡す。心なしか店員もホッとしているようであったし、後ろに並ぶ民衆もホッと胸をなで下ろしているようにも思えた。
まさにホットな関係とはこのこと。人類は皆兄弟とは良く言ったものである。

お釣りを受け取り再び小銭入れの中へ。そしてチャックを閉める。閉めるのは期待外れなほどあっさりだった。
これでこの出来事は終わりであろうと誰もがそしてこのオレ自身もそう思った。
「チャリーン、チャリーン…」
そうは問屋がおろさなかった。
小銭がバラバラとひとつ残らずこぼれ落ちたのだ。
見ると小銭入れの壊れたチャックは開いたままであった。
なんてこったい…

オレは必死に散らばった小銭を拾い集める。
必死なだけにとてもジェントルマンではないし、ホットからいきなりヒートだ。
そんなわけの分からないことを言わせるほど必死だったのだろう。
なにが人類皆兄弟だ。そう言いたくなるのも無理はない。

小銭入れひとつで人生の浮き沈み、試練を体験できると誰が思うだろう。
考えてみれば、札入れでは到底無理な話である。
こんなお得なことがあるだろうか。
ありがとう、小銭入れ。

100円均一の小銭入れはやめようと、心に誓うのだった。

byクムラ〜


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