<リンスと私>

仕事から帰ってきてふと思い出した。「そういえばリンスがなかったんだ。」
毎日リンスしないとどうも頭がごわごわしてしっくりこないのである。
と、ふと思い付いた。「そうだ、きっと買い置きしたのがあるに違いない。」と
期待に胸躍らせ、流し台周りや洗面周りなど心当たりのある場所を探しまくった。
しかし残念ながらその期待のものは現れなかった。
としばし沈んでいると、ふと我ながら名案を思い付いた。
「そうだきっとまだ容器の中に少しは残っているはずだ。それを水に薄めて使えば
いいではないか。昔はみな薄めて使ってたもんだ。」
なぜだか急に気分が明るくなった。
風呂に入ると、鼻歌を奏でながら、蛇口から出た水で慎重に薄められ作られた
リンスを頭にかけた。その瞬間、「あっ!」という声にならない声が胸の奥からこだました。
生気なく私の口から言葉がもれる。
「シャンプーしてない、、、」
虚しく空のリンスの容器が風呂場の床に揺れていた。