<望遠鏡と私>

私がまだ、はなをたらしていたはるか昔のある祭りの日、私は出店で玩具の望遠鏡を買った。当然安物である。しかし小銭をはたいて買ったからには十分楽しまなくては損である。と、その安物の望遠鏡をちょっと趣向を凝らして通常とは違う方、つまり逆から覗いてみた。当然景色は異様に小さい。しかも覗きながらなんと歩き始めたのである。当然、すぐ先のものは遥か向こうにあるかのように見える。と、その瞬間、あたりはあたかもこの世がすべて暗黒の闇の中に閉ざされた如く真っ暗闇になってしまったのである。なんとも不思議である。
それからどれくらいの時間が経っていたのであろう、気が付くとなぜかおふくろが私の両足を持って、逆さになったヘドロだらけの私の顔をのぞき込んでいるのであった。